ジュールがいない町で、それでも日々は粛々と過ぎてゆく
ごく近しい友人達には、メロとジュールが姉弟であった事は隠すわけにもいかず知られるに至った。
皆一様に驚き
特にジュールのメロへの気持ちを知る者達は、ジュールの心境を慮ってその辛さに顔を伏せた。
それでもそれぞれが各々の日常を送っている。
帰ってきたジュールに、ジュールも自分達もこれまでと何ら変わらない日常に戻れるんだと
示したくも信じたくもあるからかもしれない。
俺も、以前と同じように日々を過ごしている。
心にジュールへの気がかりを抱えながら。
メロは・・・
メロだってジュール同様深く傷つき悲しみに打ちのめされているだろう。
それでも踏ん張って今を生きようとしてるように見える。
心配してくれる人たちへの気遣いから表面上は明るく見せているようだが、
ふとした時に空を見つめるその心には、ジュールへの想いと計り知れない心配が宿るのだろう。
皆が一日も早くジュールが無事に戻る事を願ってはいる。
しかし実際その時が来た時に、メロはジュールはどのように対峙するのか。
何を話してこの先どのように暮らしていけるのか。
おそらくその答えは当事者にも周りの奴らにも今は分からない。
その時が来てみないと分かりやしない。
そんな想いも抱えつつ、メロは日々を精一杯送っているのだろう。
そんなあいつに俺がしてやれる事は何だろうか。
俺はメロとジュールに対する心配も友情もメロを大事な存在だと思う気持ちも綯交ぜに、
なるべくメロと時間を共にしてやることくらいしかできなかった。
以前俺の身勝手で、メロを突き放していた時の贖罪も込めて。
そんな気遣いさえメロにとっては心を苦しくさせているのかもしれないのだけれど、今はこいつを一人にはしたくない。
俺が忙しい時にはマスター達もなるべくメロと共にいてくれた。
一人の時間に、辛さや悲しみに、メロが押し潰されてしまわないように。
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そんな日々をひと月ふた月と数えるうちに、ジュールが町へ帰ってきた。
ギィ
「・・・ただいま、誰かいる?」
「「・・・!!!」」
「ジュール・・・!」
「帰ったか」
「ああ、・・・グレンもこの家にいたんだな。心配かけて・・・悪かったな」
「ああ、ちゃんと約束守ったな。お帰りジュール」
必ず帰るとお前は言った。
「あの、っジュ、・・・」
「メロ・・・」
「・・ご、ごめんな?置いてきぼりにして、‥心配させて」
「ジュールっ!」
「本当に!し、心配したわ!私を置いていなくなってっ!もう、もう会えないんじゃって・・・!」
「うん・・ほんとにごめん。色々・・一人で、飲み込む時間が欲しかったんだ。そうじゃないと、
メロにどんな顔で会えばいいか分からなかったんだ、俺」
「ジュール、ジュール!」
・・・俺に縋りついて泣くメロを、抱きしめて慰めて安心させてやりたい。
けどそれはもう、俺にはできない。今の俺にはできない。
「それにさ、『もう会えない』なんて。大事なメロを一人落ち込ませたまま俺が居なくなるわけないじゃん」
「これまでだってこれからだって、メロが大好きだし大事だよ。」
「ジュール」
「だから泣かないで。泣かないでよ。笑ってるメロが一番好きなんだ、俺」
「ご、ごめんなさい、責めるような事言って。分かってる・・全部・・・帰って来てくれて、本当に良かった・・」
「うん」
金も尽きたし俺はこの町に戻ってきた
何処にいたって何も変わるわけじゃないんだから。
だったら愛しい人達の住むこの町が、やっぱり俺の居るべき場所なんだって思うから。
辛いからってメロの傍から逃げて、それが俺にとって本当に最善の道なのか?
だってメロだけじゃない。
グレンも母さんもマスター達も、みんな大事で大好きなんだ。
だからみんなの傍が、この町が俺の帰る場所なんだ。
逃げたらずっと引き摺って、おそらくその先永遠に幸せには辿り着けない。
そんなのは嫌だ。俺だって、幸せな未来を・・・
「ジュール」
「大丈夫か?・・・なんて聞くのは違うかもしんねぇけど・・・」
「ああ、大丈夫。俺は大丈夫さ、グレン」
どんな事があったって、この愛しい人達が大切だ。
大丈夫。そんな風に思える俺は幸せ者だよ。
「あー、そんでさ、今日は母さんも心配してるだろうし実家に帰ろうかと思うんだけど、
・・・ここ、出てった方が良ければそのまま実家に戻ろうかな、俺」
「えっ、・・・」
「だって、俺と一緒じゃ色々気を遣うだろ?メロ。いい機会だし、同居を解消するのもいいかなって」
「俺としてはメロを一人にしとくのは心配だからさ、グレンが俺に代わってここに戻ってくれるのが一番安心なんだけどな」
「・・・俺は今のマンションから出る必要はないから今のままいくつもりだ。
お前が出てって俺がメロと二人で暮らすってのもおかしいだろうよ」
「んー・・・そっか」
「なんで?」
「なんで・・・そんな事言うの?」
「メロ、」
「ジュールが、・・・一緒に居るのが嫌だって言うなら仕方ないけど、私は一緒に居たいよ」
「だって、・・・私達、家族じゃない」
「家族・・・」
この世で一番愛しい恋人が、突然姉になった事。
その新しい関係を、『家族』と呼ぶ。
この、俺にとって一番喜ばしくなかった事実を飲み込むしかないんだ。そう・・・決めたんだから。
「・・・そうだね。俺達家族だもんな。一緒に暮らしたっておかしくないよな」
「う、うんでも・・・無理はしないで・・・。ジュール辛くない?私と一緒で、顔を見てるの辛くない?
姉弟だからって、一緒に暮らすって・・・まだ早い?無理かな?」
「メロ」
「何が正解かは分からないけど私、・・・これ以上ジュールに辛い思い・・・して欲しくないの」
「・・・・・」
分かってるよ、メロ。
メロだって簡単にそんな事を言ってる訳じゃない。
俺と同じく傷付いて、それでも俺を気遣い少しでも前に進もうと頑張ってるんだって・・・
それに今離れてしまったら、メロとの距離はきっとどんどん開いてしまう。
今の俺にはその方がまだ、辛いと思うから。
「だーいじょうぶだよ!メロがいいんなら傍に居させてよ。俺にとってもそれ以上
嬉しい事なんてないんだからさ。これからもよろしくな」
「・・・うん、もちろんよ」
「グレンも、もうツンケンしてないで顔出してくれよな?また仲良くしよーぜ!」
「は・・・しょーがねぇから二人纏めておもりしてやるよ。」
「ふ、相変わらず素直じゃないねぇ」
「あ、私今日これからお店に出なきゃなんだけど、・・お休みさせてもらおうかな」
「いや、俺も一緒に行くよ。マスターやみんなに帰った報告したいしさ。
それに素寒貧になっちゃったから一日でも早く仕事に戻らなきゃだ」
「そ、そう?じゃあ一緒に・・・」
「ジュールっ!ほんとうにあんたはっ!・・・心配させてっ!」
「ごめんマスター・・・ありがとう。またここで働かせてくれる?」
「当たり前でしょ!休んだ分もバリバリ働いてもらうからねっ!」
「おー!俺頑張るよ!」
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「今夜は暇ですねぇ。早上がりさせてもらって飲みにでも行きません?」
「そうねぇ~・・・」
「アニス」
「よぉ」
「おや・・・」
「おかえりー!ジュールたん」
「ああ。ただいま」
「ジュールたん!」
「お、おい」
「飲み行くよ!」
「わかったわかった」
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そうやって、日常は戻ってきた。
みんな俺とメロにどことなく気を遣ってる感じだけど、それでも以前と変わらず
良き友人、仲間として温かく接してくれる。
グレンもふらっとうちに立ち寄っては3人で食事や酒を飲んだりして日々を過ごしている。
表面上、何も変化もないが波風も立たない穏やかな優しい日々が続いていた。
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「ピクニック?」
「うん。ローズがさ、行きたいって言うんだよ。最近マスター達も忙しいみたいだしアニスも忙しいらしく、ローズも
寂しい思いしてるみたいで」
「何がしたい?って聞いたら『ピクニックに行きたい』って言うからさ。良かったらメロもどう?」
「勿論!是非ご一緒させてもらいたいわ!」
「そう、良かった」
「んで?グレンは?」
「あ?」
「・・・はぁ。 ま、都合が合えばな」
「オッケ!」
「弁当はメロじゃなくジュールが作るんだろうな?」
「は?」
「グレンさん!まだそんな事言いますか!私、料理できますけどっ!」
「どうせならうまいモン喰いてえだろ」
「まあまあ・・・」
以前のグレンだったら行かなかっただろうね、ピクニック。
俺らの為に無理させちゃってるんじゃないかって少し申し訳ない。
けどきっとメロも喜んでいるから・・・良しとしよう。
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こういう光景は、きっと温かい記憶となる。
時にはふと思い立って海辺へ向かい朝焼けの空を眺めたりもした。
呼び出されたグレンは文句タラタラだったけどね。
そうした日々を、季節を過ごしていると、ふっと過ぎし日の切望が胸を掠る。
こんな風にただ繰り返される幸せな日常を、メロの一番傍でずっと感じていたかった。
一番傍で、一番に愛して、一番に愛されて。
心からの笑顔で。
俺の願いはただそれだけだった。
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「よお、今日はこっちか」
「ええ、人手が足りないからって。」
「そうか」
「ちょっと話さねぇか」
「もうじき半年か。お前も・・・そろそろ整理ついたか?」
「・・・・・そうですね。でも・・どうかな、まだよく分かりません。ただ、・・・前を向いて行かないとって・・・。」
「それに、」
だけど、やっぱり気になっているのはジュールの気持ちで
「グレンさん、私ってジュールに対して無神経かな?嫌な女かな?」
「あ?」
「あの時、・・ジュールが帰って来てくれた時、私は・・・ジュールに以前と同じように
一緒に暮らす事を望んでしまったけれど、あれって私のエゴでしかなかったんじゃないかって・・・
ううん。考えなくたってそうなの」
「私は姉弟という関係になっても、ジュールとは一緒にいて仲良くやれるって、
前と同じように楽しく暮らしたいって・・・勝手に思って、」
「・・・・・」
「でもジュールからしたらまだそれって辛い事だったのかもしれないのに。
私が『家族だから』ってそう望んだから無理してジュールに辛い思いさせたんじゃないかって」
「本当は・・・私から距離を置きたかったかもしれないのに」
「メロ」
「確かにあいつにも葛藤はあっただろうよ。こんな言い方は何だが、あの時のあいつの”絶望”の原因のお前と
毎日顔つき合わせて暮らすってのは、まあキツイもんだろうからな。」
「・・・・・」
「けどそれも分かった上であいつはお前の望み通りにした。・・・あいつ自身もまた、お前から離れる辛さより
一緒に居る辛さの方を選んだんだろう。俺はそう受け取ったがな」
「グレンさん」
「何もお前の為だけじゃない、ちゃんと分かってんだよ。ジュールは自分の意思でそう決めたんだよ。
あいつがお前と一緒に居たかったんだよ。」
「そう・・・だったら・・・いいけど」
「メロ、信じてやれよ。本当に無理だったら出て行ったさ、あいつは」
確かにあの時ジュールはメロからある程度離れようとしていたと思う。
あんな事があって、二人でいるには気も遣うし悲しみや辛さをいつまでも目の当たりにして
気持ちを切り替えようにも難しいものがあっただろうから。
それでもメロの一緒に居たいという想いを聞いて、メロの望み通りにしてやりたいと思ったのが一番の理由だろう。
自分が辛くともメロがそう望むならと。
恋人ではなくなっても、あいつにとってメロが世界で何より大切だという想いは変わっていないのだろうから。
ただ、その中には少なからずあいつ自身がメロから離れたくないという気持ちがあったと思う。
メロに望まれ自身もそうしたいという気持ちがあるから即決したんだろう。
その結果がどうなるかは俺も心配していたが、二人とも穏やかな日常を遅れているようで
胸を撫で下ろすところではあるのだが。
「・・・俺はよ、・・・いやお前もジュールもさ、すげぇよな。」
「凄い?」
「ああ・・・。降りかかった困難にきっちり自分で立ち向かって結局解決しちまう。
お前ら二人ともほんとすげぇと思うぜ」
「そんな・・・私なんかはそんな事」
「そんな事あるんだよ。謙遜しねぇで認めろよ」
「・・・は、はい、ありがとうございます」
「ありがとうございますねぇ・・」
「お褒め・・・頂いて?」
「はっ・・・ お前は相変わらずだな」
グレンさんはそう言ってくれるけど、本当に私一人で解決できた事なんて一つもない。
いつだって周りの人達が支えてくれたから困難にも立ち向かってこれた。
「そんでよ、俺は思ったわけだ。お前らかっけーな!って。」
「そんなお前らの生き様を見てよ、俺も俺なりに自分をカッコいいと思えるように生きないと、
いや、生きてぇって思うんだよ。」
「俺らももういい歳だろ?ガキじゃねぇんだ。自分の生きる道をちゃんと見定めたい。」
生きる道・・・・・
「俺はやっぱりどうしたってギターが好きだ。それが幸い俺の生きてく糧になるならよ、
いい加減じゃなく自分の持ち得る情熱を余す事無くぶつけてみようと思うんだよ。」
「グレンさん・・・」
「俺はやる。決めたぜ。誰にも負けねぇギタリストになってやる」
「す、素晴らしいわグレンさん!グレンさんなら、グレンさんのギターならなれる!絶対に!」
「おう」
「・・・こう思えたのもメロ、お前のお陰だぜ。」
「え・・・?」
「・・まあいいさ」
「・・・素敵。本当に素敵な事だわ・・・・・」
「まぁあくまで俺の決意って段階だがな」
「それが素晴らしい事だわ」
本当に素晴らしい事。そして・・・良かった。
そうだ私達・・・これから自分がどう生きていくかを決めるべき時にいるんだ。
「グレンさん!」
「おぉ?何だよ
「私も!もっと絵を描く事に真剣になってみようと思います!だって私はそうしたいから!
それでそれが生きてく糧になるならそんな幸せな事はないと思うから!」
「お、おう・・・」
絵は私にとってこれまでの私を、私の知らない世界をも表現していけるかけがいのないもの。
苦労したっていい。その道で生きて行けるようになるまで頑張ってみよう。
グレンさん・・・
いつも私の進むべき道を示してくれるのも、気付かせてくれるのもグレンさんだった。
だからこそ、そんなグレンさんに私は惹かれたんだ。
分かりにくいけれど、真っすぐな意思を示してくれるグレンさんに憧れたんだ。
自分もこうありたいって。羨ましくさえあった。
そうしてそうしようと進む事が出来て私は変わる事ができた。
今だってそう。
私も自分の生きる道を決めたい!見つけたい!
グレンさんは『お前のお陰』だなんて言うけれど、私の方こそ今こう思ってこうして立っていられるのは
素晴らしく優しい周りの人達、そしてジュール、グレンさんのお陰なの。
「ありがとう、グレンさん」
「・・・俺もお前に”ありがとう”だ、メロ。」
「お互い、頑張りましょうね。負けないわ、私も。」
「おう」
68話へ続く
<あとがき>
お久しぶりです!やっと67話更新できました~(*^ヮ^*)
お話の方も残すところあと少しですが、引き続きお付き合い頂けたら嬉しいなぁ~と思う作者であります。
毎度の感じですが、年内にもう一話更新したいなーと、思っては、います。
年末特有の忙しさにやられる前に作業進めよう・・・うん。
話は変わりますが、レビュー世帯のキャラでお分かりのように、私はときメモGSシリーズが好きなんですが
先日GS4が発売されました!
ファンとしましては発売日にとりあえず一周はプレイしましたが、アスモデウス作らなきゃ・・・
とそれ以降我慢してました(;´∀`)
なので再びちょこっとはばたき学園に入学してきますー!(*´∀`*)
(何度か卒業したらアスモデウスに戻ります)
ではまた次回!